2012年6月8日金曜日

原発事故に対するシステム工学の視点 6

高原の昼食
筆者の同世代の友人には、昔、アマチュア無線や電子工作が趣味だったと言う人が少なからずいます。
現在は、たいていは電気とは全く関係のない分野の仕事をしており、最新の電気通信技術の話は全く出来ませんが、昔の技術の話で結構盛り上がったりします。


筆者たちが過ごした少年時代は、今のようにパソコンなどがまだなく、小学生の知的好奇心を満たす玩具が限られ、勢いそっちの分野に走ってしまったのでした。
 筆者が小学生の頃は、トランジスタと真空管の端境期で、一応両方やったのですが、一月分のおこずかいでは、真空管やトランジスタがせいぜい1個買えるだけでした。
 従って小型のラジオ受信機を作ることが多かったのですが、微弱な電波を音を鳴るまでの電気信号に変えるのに増幅が必要なのですが、問題はトランジスタ1個だとせいぜい100倍程度の増幅率しか得られないため、複数のトランジスタを用いて多段に増幅する必要があったことでした。
例えば、増幅率が仮に100倍のトランジスタを2段に並べると、大雑把に言って 100×100=1万倍の増幅率が得られます。
しかし、そうするためにはトランジスタが2個必要になって予算をオーバーしてしまいます。
そんな時に1個のトランジスタで2個分の増幅率が得られる夢のような方法がありました。
これは一度トランジスタで増幅した信号を再度入力側に入れて同じトランジスタで2度増幅するやり方です。
このやり方は、いわゆる正帰還回路(Positive Feedback Circuit)の一種で、メリットは、少ない部品数で高い増幅率が得られる事ですが、反面、増幅率を上げれば上げるほど音が歪んで行き(情報の変形が起き)、あるポイントを超えて上げすぎてしまうと「ピー」という音とともに発振状態に陥ると言うデメリットがありました(発振直前が最高の感度を得られるポイントでした)。
この発振と言う現象は、イメージ的には、出力側の信号の一部を入力側に入れるために、それがソフトウェアの無限ループのような状況になり、単調な波形(発振音)を出すような感じです。
しかしながら、当時は音質は悪くとも安い値段でラジオ放送が受信できたので、それで十分満足しておりました。

組織間の正帰還ループ

巷間伝えられる所によりますと、今回の原発事故の背景には、電力業界とそれを本来チェックすべき側の行政の間に強い癒着があった事が問題としてあげられております。
電力会社が様々な形で影響力を行使し、チェックする側の人間に安全基準を下げさせたと伝えられております。
そして、電力会社がチェック側の人間に意図的に安全基準を下げさせ、なおかつ、その下げた安全基準で十分安全と信じていた形跡があるそうです。
これは一見すると不思議な現象で、極端に言うと、人に嘘をつかせ、その嘘を自分でも信じてしまったわけですが、人間の心理としては理解できます。
つまり、自分が信じたい事を人に語らせそして信じてしまったわけです。

これは、組織的に言うと、組織間に正帰還ループを形成してしまった状態となります。
これに対し、本来組織そのものが管理の対象となる行政側の上級管理者も東電の経営者も何らの対策も打ちませんでした。
まるで、組織リスクなど存在しないごとく、言わば一緒に発振してしまっている状態でした。
これでは、原発の管理だけではなく、原発を管理する組織の管理そのものにも強い疑念を持たざるを得ません。

筆者は最初に述べたように、日本は原子力技術の開発は続けるべきだと言う立場ですが、原発の安全管理の問題に加え、組織管理の問題に対しても強く憂慮する者です。

(続く)

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