2012年2月28日火曜日

OCEB講座 第11回 ビジネス・モチベーション・モデル

 組織構造とビジョン/戦略の不一致  

ジム・クーリング博士の「S/W Engineering for Realtime Systems」の翻訳(正確には下訳はあるので監訳)作業をチームを組んでやってますが、そのメンバーの一人M君は、最近まで携帯電話の開発に従事していたそうです。(直近では、アンドロイドのハードウェアとソフトがからみ合う部分を担当)。
過酷な事で知られる携帯電話の開発現場ですが、最大の課題は中韓の開発にどうやって追いつくかだったそうです。
彼の現場から観点から見た日本の開発現場の問題(中韓の開発現場と比較して)は、個々の技術者のスキルの問題よりも、むしろ、要件マネジメントのまずさと、要件分析とそれに続く開発プロセスそのものの問題であると見ています(彼は、ペーパーも準備中だそうです)。

現在世界的には、R&D型のソフトウェア開発は何らかの形で繰り返し(イテレーション)が入るスパイラル型が主流ですが、 彼がいた現場では相変わらずウォーターフォール型で、しかも、ここ十年はほとんど変わっていなかったそうです。それに対して、彼が知る中韓の現場では、技術者達はプロセスそのものを改善の対象と見なし、ダイナミックにプロセスの変更を行なっています。

要件マネジメントに加え、プロセスそのものに着目する慧眼はさすがだと思います。また 、この問題は一つ携帯電話業界だけの問題ではなく、日本の大部分の組織に内在する問題です。携帯電話開発は、過酷な国際競争にさらされて問題が顕在化した不幸な実例でしょう。

組織の設計の問題

最近の日本の組織の意思決定が非常に遅い事は世界的に有名ですが、これは日本人が怠け者になったと言うよりも、その組織構造に問題があります。
日本の組織のプロセス構造を見ると、正式のプロセス以外の調整作業(Coordination Work) の多さが非常に目立ちます。
調整作業そのものは決して悪い事ではなく、純然たる定型業務でも無い限り必ず必要となるプロセスですが、多くは組織の目的と組織構造(プロセス構造を含む)が合致していない場合に調整が急増します
また、組織構造(プロセス構造)が、それを取り巻く社会環境と合致しない場合にも増大します。
膨大な調整作業の結果、極端な例では、マネジメントは調整機能しか果たしてないケースが間々あります。(日本では、この極端なケースの方がむしろ多いようです。)

(続く)


2012年2月24日金曜日

セミナーのご案内 SysML, ソフトウェア工学、形式手法

OMGのソーリー会長が来日されることになり、急遽、ミニ・セミナーを開催することになりました。
(終了しました)

期日: 3月1日木曜日 10:00 〜
場所: 東海大学高輪校舎 3号館(通称 大学院棟) 1階会議室
(高輪キャンパスへのアクセス情報)

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参加費: 無料
申し込み法: 終了しました。

当日のアジェンダ:
  • 10:00〜 11:30  SysMLセミナー
  • 11:30〜 12:15  リアルタイム・ソフトウエア工学とSysMLのプロモーション
  • ランチ
  • 13:00〜 14:00  モデルベース形式手法研究会とOMG


概要:  いずれも講演会形式ではなく、会議形式で行います。
  • SysMLセミナー
    • ソーリー会長によるオープニング・スピーチ
    • SysMLの標準化状況
    • 北米や海外での普及動向 、国別、産業別
    • 情報交換、意見交換  等
  • リアルタイムソフトウェア工学とSysMLのプロモーション
    • これは、純然たるマーケティング・セッションです。
    • 「S/W Engineering for Realtime systems」の翻訳状況
    • 日本語版OCSMPの準備状況
    • 「Practical Guide for SysML」の翻訳出版予定
    • OMGとのジョイント・マーケティング等
    • 内容はマーケティングであり(書籍、資格試験、トレーニングなど)、必ずしも技術者向けではありませんが、非公開ではありませんので、ご興味がある方はご参加ください。
  • モデルベース形式手法研究会
    • 現在、モデルベースの形式手法の研究会の立ち上げを準備中です。OMGの未公開情報にもアクセスする場合があるため、運営はOMG参加企業メンバーとなりますが、本セッションは、どなたでも参加可能です。
    •  モデルベースの形式手法、存在論(Ontology)メタモデル等の動向にご興味の有る方は、奮ってご参加ください。



2012年2月13日月曜日

OCEB講座 第10回 ビジネス・モチベーション・モデル


筆者は、大学の組込み技術研究科と言うところでモデリングを教えていますが、この学科の卒業生の多くは組込みソフトウェア業界へ進んで行きます(反対に、業界で働きながら学ぶ学生もいます。)
さて、この組込みソフトウェア業界と言うのは、(筆者も世界中の業界を調査した訳ではないのですが)恐らく日本独自の業界ではないかと思います。
もちろん組込みソフトウェアは世界中で盛んに開発されており、今や組込みソフトが載っていない機械を探す方が難しい時代ですが、他国では業界をなすほどの大きな産業分野には育っていません。
理由はいたって単純で、他国では組込み系ソフトをあまり外注に出さず内製し、むしろハードの開発の方を外に出す傾向が強いためです(特に先進的な分野ほど、この傾向が強いように思えます)。
これは、節分の豆まきのように「ソフトは内、ハードは外」と単純に決めているからではなく、他国では、一般的に付加価値の高い作業(プロセス)を内製にし、低い作業(プロセス)を外製にしたがる傾向が強い事に起因します。
 これらの事から、『日本の経営者はコストには敏感だが、価値には鈍感である』と言う命題を証明する事にはなりませんが、傾向の一端は示していると思います。
なお、日本の経営者の名誉のために言えば、欧米でも、コストカットを進めた行った結果、企業価値を どんどん減じて(中には完全に消滅させて)しまった経営者は数多くいます。まさに、企業にとっては下手な外科医に当たったようなものです。

価値を創造したり発見できる才能を持つ経営者は、企業にとっても希少な資源です。


ビジネス・モチベーション・モデル


2012年2月4日土曜日

OCEB講座 第9回 軍事技術とビジネス

アメリカの職場で働いた経験のある方はご存知だと思いますが、あちらでは軍関係者、元軍人などが、ビジネス分野でも非常に活発に活動をしています。
元々、戦略やビジョンの研究は、歴史的に主に軍事分野で発達して来ましたが、昨今では、ビジネス分野にも広範に取り入れられ、適合化が図られてきました。
筆者の身近な例を挙げますと、筆者自身が取締役を務めていたUTIが提供しているOCEBの受験対策コースは、アメリカのVisumpoint社が開発したものですが、同社の代表であるL氏は元軍人です。
彼は久しく軍で兵站(ロジスティックス)関係の仕事をしておられ、退役後はビジネス・コンサルティングの分野で活躍し、あわせてOMGのボードメンバーにも就かれています。
言わば、軍事技術の平和利用の見本みたいなケースです。 (ちなみに、彼の父君は、海軍で潜水艦の艦長をされておられたそうで、家系的にも軍人が多いそうです。)

本講座では、元々軍事用語であった戦略やビジョンと言った概念をビジネス分野へ応用し作られたフレームワーク、ビジネス・モチベーション・モデル について解説して行きたいと思います。
日本のビジネスマンは、元来、具体的な話を好み、抽象的、概念的な話を軽侮する傾向がありましたが、最近では、システム・シンキング、概念シンキングの欠如に起因する問題が各方面で見られるようになってきました。
今後のビジネス・シーンで活躍が期待される読者の皆様にも、これを機会にフレームワーク的なアプローチに親しんで頂きたいと思います。