2018年2月11日日曜日

都市伝説 ー システム工学版

F16ジェット戦闘機
 最近はシステム工学の入門コース(SysML入門)を作っているのですが、その中で、システム工学に興味がない人にとっても面白いのではないか?と思われるトピックがあったので、ブログにしてみました。
(邪馬台国の続きは、そのうちにまた)

 ソフトウェア工学に関するお話で非常に有名な伝説の一つに、「赤道上空飛行機上下裏返り事件」と言うものがあります。
航空機が南半球から北半球へ向かって飛行している際、赤道を越える瞬間に機体の上下がくるりと裏返ってしまい、また逆に北から南へ戻る時も赤道を越える瞬間に同様のことがおこる ー つまり赤道を越える度に航空機が裏返ってしまうと言うものです。

この航空機というのはアメリカのF16ジェット戦闘機のことです。
F16は1970年代の初めころに設計が始まった胴体と翼(とフィン)の一体化設計を特徴とする戦闘機で、その後何度も改良を加えながら、21世紀の今日も現役であり続けています。
2018年の現在でも、米空軍保有の戦闘機の中で最大数をF16が占め、米国だけでなく世界各国にも輸出された、ー たしか日本の自衛隊も使っていると思います ー ベストセラーであり、航空機業界のレジェンドです。
そして、F16のもう一つの特徴は、世界で初めてフライ·バイ·ワイヤー方式を採用した戦闘機と言う点です。
フライ·バイ·ワイヤーとは、航空機の操縦を機械式ではなく電気式に置き換えたもので(fly-by-wire :ワイヤーは電線の意味)、パイロットが(油圧などを利用しながら)直接機械的に航空機を操縦するのではなく、コンピュータ制御盤を操作するだけで、あとは電気信号で各種機械装置に指令を送りながら操縦をするという方式です。
このフライ·バイ·ワイヤー方式のため、通常の飛行は極めて簡単、スムーズ、安定的になりましたが、反面、予想以上の様々な問題に遭遇することになります。
従来の機械式では、機体や人体に異常な力が掛かるような無理な操縦をしようとすると、操縦桿が非常に重くなったり(機械式ですので負荷や振動が直接操縦桿に伝わります)、機体から異音が発せられたりして、パイロットは素早く異常に気づくことができましたが、このフライ·バイ·ワイヤ方式では、操縦桿は電気信号を発生する単なるジョイスティックとなり指先で簡単に動かせ、またスタビライザー(安定化装置)が自動的に働いて少々の異常振動は押さえ込んでしまいますので、異常に気づくのが遅れ、時としてパイロットや機体を危険な状態に追い込みます。
強力なジェットエンジンと簡単なジョイスティック操作で、人体には堪えられない高いG(加速度)を出してしまいG-LOC(脳に血液が行かなくなり、意識を失う状態)に陥った結果、墜落と言うこともあったようです。
(初期の頃は、G-LOC以外の原因も含め、何人ものテストパイロット(熟練した技量の高いパイロット)の方々がF16搭乗中に命を失ったようです。)
また、機体中に張り巡らされた銅線が過酷な動作環境下で擦れたりよじれたりして回線が断線、ショートしたりお互いに干渉しあったりして(電磁誘導)、誤信号を出すようになり、地上に待機中のF16が、まだ離陸どころか滑走もしていないのに、突然車輪を仕舞い込みはじめ高価な機体を地面に叩きつけて壊してしまったり、異常な電気信号のせいでコンピュータの誤動作を誘発するようになりました。
また、70年代、80年代はソフトウェア工学の黎明期であり、、、、つまり、一言で言うと初期のF16のソフトウェアはバグだらけでした。

ジェット戦闘機のパイロットは重力以上の高い加速度を浴び続けているため往々にして、上下の感覚を失ってしまいます。視界があるうちは窓の外の海や空を見て上下を判断しますが、悪天候等で視界がきかない場合は計器が示す水平線を見て判断します。ところが、その計器が間違っていたらどうなるでしょうか?
80年代のある時、F16のパイロットはしばらくの間、水平飛行していました。視界が全く効かず計器の水平線を頼りに飛行していましたが、この時点で彼は気づいていませんが既に上下反転の状態、裏返しの状態で飛んでいました。そして突然、その計器が機体が地面に向かって急降下していると示し出しました。彼は操縦桿を急いで引いて機体を上昇させようとしました。
しかし、全ての情報は上下逆で、彼の飛行機は地面に激突してしまいました。
彼の腕は操縦桿を握ったままの状態で発見されたと報道されています。

F16の開発過程では様々な逸話が生み出されました。人類はいかにしてテクノロジーを獲得してきたかを如実に示す技術史とも言えます。そして、各種の逸話と同時に数々の都市伝説も生み出しました。
F16にまつわる話は多いけれどどれが真実の話か、どこまでが本当の話か、が専門家でも判断つかなくなってきました。専門家が聞いても、十分に起こりうる話だと感じさせられる真っ赤なウソも多くなってきました。
F16そのものが都市伝説となってしまったのです。

このブログの先頭にあげた「赤道上空飛行機上下裏返り事件」もそう言った都市伝説の1つです。 と言っても70パーセントぐらいは本当の話で、実際にコンピュータ·シミュレーション中に発生しています。
F16の自動操縦をさせるソフトウェアを開発し実機で稼働させる前に、コンピュータ·シミュレーション環境で動かし、たまたま赤道付近を飛行させたために発見されたバグです。
F16の開発は航空技術的、ソフトウェア技術的、システム工学的に非常に興味深いエポックであり、同時に多くの都市伝説を生みました。
試しにネットで"F16 urban legend"で検索すると山ほどの文献がヒットします。
この真実味のある都市伝説の多さから、F16はシステム工学の”となりのトトロ”と呼ばれています。(冗談です)

2018年2月1日木曜日

纏向遺跡にて その1

箸墓 纏向遺跡
正月に初詣に奈良に行ったとき、帰り道に邪馬台国の有力候補として有名な纏向(まきむく)遺跡を見てきました。
筆者は学生時代から日本史が苦手で、古代史などにも全く関心が無かったのですが、実際に遺跡を見てみると俄然興味が湧いてきました。

邪馬台国がどこにあったかと言う問題は古くは江戸時代から争われて来たそうで、その論争の最大の原因は邪馬台国の場所が記述されていた「魏志倭人伝」の地理的表現、特に方位や距離が(意図的とも取れるほど)不正確であることにあると言われています。


考えてみると、古代どころか近世の江戸時代の地図などを見ても、距離や方位と言った情報は極めて不正確です。海上など見通しのきく範囲では方角はある程度信用できますが、見通しのきかない長距離の陸上となるとかなりいい加減となりますが、これは当時の軍事上あるいは生活上、正確な方位や距離が必要な場面がほとんどなかったからです。
それに反し、トポロジー情報は極めて正確です。
なんとか村の隣はなんとか町と言った隣接情報や、街道沿いに現れる地名の順番を間違えることはまずありませんが、これは、人間が主にトポロジー情報を使って移動しているからであって、方位や距離の重要度を遥かに凌駕します。
また、トポロジーに並んで正確に記憶される情報として、地域の特産品、風俗などの地誌情報があります。
例えば仮に魏志倭人伝で、「邪馬台国の特産品は”辛子明太子”である」と記述されていたとすると、皆さんの中にも、ある地域がピンと思い浮かぶ勘の鋭い方もいらっしゃるかと思います。
そして、さらに、「邪馬台国の主食は”豚骨ラーメン”である」と記されていたら、話は決定的になります。
何となれば、”豚骨ラーメン”を常食し、”辛子明太子”を好む土地というと、そうです、あの地域しかありえません。
ところが、さらに続けて、「邪馬台国では”豚骨ラーメン”を食べる時には必ず"柿の葉寿司"を合わせて食べる」となると頭の中は大パニックを起こしてしまいます。
かように人間は地誌的情報に対して極めて敏感であり、これは、おそらく人類が狩猟採集生活をしていた時代から骨身に叩き込まれ身につけて来た習性であったからでしょう。

北九州上陸直後に消息を断つ

さて、魏志倭人伝にはトポロジー情報も地誌的情報も記されていますが邪馬台国の所在地を特定するまでには至りませんでした。
地理的に、魏の支配下にあった朝鮮半島の帯方郡から対馬、壱岐を通って北九州に上陸するまでのルートは、ほぼ確実にたどることが出来ますが、上陸後幾許もせず情報が急激に曖昧模糊となって犯人(ホシ)の足取りがプッツリと途絶えてしまいます。
また、地誌的な情報も、邪馬台国の南方系的、海人族的風習を思わせる記述があるだけで、ホシ(犯人)を特定するにはあまりに不十分です。
そして長い間、もはや事件(ヤマ)はお宮入り(迷宮入り)かと思われたところに、新しい新事実が発見されました。
そして、ヤマ(事件)は動き出します。
🎵BGM指導: この節は「太陽にほえろ」のテーマを流しながら読むのが良いでしょう)

崩れ去ったアリバイ(不在証明)

新事実とは、纏向遺跡の考古学的発見です。
纏向遺跡は以前からその存在は知られていましたが、時代的には邪馬台国の時代、3世紀のものではなく、もっと後の時代のものだと見なされていました。
従って邪馬台国の時代に纏向はまだ無かった、と言う不在証明ーアリバイが成り立っていると考えられていました。
しかし、近年の発掘調査の結果、纏向の成立時代は従来の定説を遥かにさかのぼり、邪馬台国とほぼ同時代と見做されるようになり、ここに至って、纏向のアリバイー不在証明は完全に崩れ去ってしまいました。
そして、その遺跡の規模や内容から考えて、纏向は邪馬台国の最有力候補、ー もとい、最重要容疑者にされてしまい、世間から強い嫌疑の視線を浴びるようになってしまいました。本人もまだ自白(カンオチ)には至ってませんが、かなり弱っているのは確かです。

真実の訴え 纏向はシロ(無実)

しかしながら、筆者は、纏向あるいは大和地方は邪馬台国では無かったと考えます。この結論に至った論考は次回以降述べたいと思いますが、この結論に至った最大の要因は何と言っても遺跡を目撃したことによります。
もし、この目撃情報がなかったら、筆者も、纏向や大和地方に対し、強い疑惑の目を向けていたままかも知れないと考えると 恐ろしい気がします。


次回に続く