2022年5月13日金曜日

世界標準と日本語 その5

OSIの接続試験に時間が掛かったのは、大きく分けて2つの要因によるものでした。

1つ目は、参加企業の技術力や対応能力の違いでした。A社とB社の接続で問題が発見された場合、OSI標準に則り原因が究明され、一方もしくは両方の開発部門により修正が加えられて再テストすることになりますが、その対応スピードに差がありました。

しかしながら、この対応速度の差は事前に予想されており適当なスケジュール・バッファーが取られており、結果的にはほとんど問題にはなりませんでした。繋がらない原因が判明すれば、原因側の企業はさっさと、ー 時間が掛かっても、せいぜい2、3日以内に ー 修正して来ますし、接続機器がパソコンなんかだと、その場でテスト機に直接修正を加えコンパイルして完了、と言った感じで、その修正の速さに、メインフレーム側のエンジニアを驚かせていました。

注) メインフレームなどの大型機は、テスト機が接続試験会場に持ち込まれることはなく、遠隔地にあるメインフレームに繋がった通信回線のもう一方の他端が試験会場に来ているだけなので即時の対応が難しく、それに対し、パソコンなどの小型機は会場に直接持ち込まれるケースもありました。

 接続試験に時間が掛かった2つ目の要因 ー 実はこちらが本質的な問題でした ーは、不具合の原因がわからないと言う問題でした。

不具合が発生すると、当然、OSI標準に則って、標準通りに動作しているか調査され、どちらが間違った動作をしているか? あるいは、両者とも間違っているか?と言ったことが調べられるのですが、当事者以外の専門家が見てもどちらが間違っているか判断が付かないケースがしばしば発生しました。

また問題は、2社間の接続だけでなく、3社間以上の組み合わせで発生するような問題も起こりました。

どう言うことかと言うと、例えば、「A社とB社の接続では何の問題もなく、A社とC社の接続も滞りなく繋がる、ところがB社とC社で繋ごうとすると問題が発生して繋がらない。」と言うような問題がしばしば起こりました。(下図参照)


そして、A、B、Cの三社とも、自分は標準通り作り、I標準通り動作していると信じています。
すなわち、各社の標準の解釈が異なっており、どの解釈が正しいか、標準を見ただけでは、第三者の立場に立つ専門家にも判断がつかないと言う事態に陥ってしまっていました。

また、この問題には、非常に興味深い特徴がありました。

OSIのアーキテクチャーは、他の大部分の通信プロトコルと同様に階層型アーキテクチャーを採用しています。(下記のOSIの階層図を参照)  

OSIの階層
図を簡単に説明すると、一番上のアプリケーション層がアプリーケーション(ソフトウェア)そのものであり、下位の層が一つ上の層に対しサービスを提供する形で階層を構成しており、最下層の物理層が電線や光ファイバーなどの通信回線となります。
コミュニケーション理論で言うと、下位層はメディア(媒体)を管理し、上位は意味を扱うレイヤーになります。
 
そして、上記の問題は、面白いことに、下位のレイヤーでは殆ど起こらず、大部分が上位層で発生していました(特に、アプリケーション層を中心に上位の層に集中する傾向)。
上位の層は、アプリケーション自体やアプリケーションに近い、つまり人間側に近い内容を扱っていたのに対し、下位は、電気信号などの物理的な内容、一言でいうとメディア(媒体)固有の問題や、ネットワーク・アドレスなどの基本的な論理的内容を扱っていました。

1980年代、 OSIは、当時フランスに本部があった国際電気連合の標準化部門、旧CCITTで、標準化が進められており、フランス語を始めとするいくつかの国際言語(国連のそれと大体同じ)で記述されていましたが、実際問題として世界のIT企業の大勢は、英語版をもとに実装化を図っていました。そして、多くの日本企業も、英語版や英語版からの和訳版を使っていました。

そして、まず第一に疑われたのは、標準の誤訳や、英文解釈の間違いでした。

0 件のコメント:

コメントを投稿